ベナレスで火葬≪十月二十四日≫ ―壱―午後から全員アクロポリスに登ることになった。 午前中は、日本にハガキと手紙を認めて・・・・イスタンブールで買っ た、毛皮を着込んでアクロポリスに向う。 今日は・・・日曜日。 ところが、待っていたのはテッシン一人だった。 観光客は、この寒さと天候の悪さ・・・おまけに強風と最悪の条件にも係 わらず、信じられないほどの人混みである。 あまりにも強風と寒さが身にしみ、入り口付近の大きな大理石の壁にもた れ掛り、風を遮る様にして数時間を過ごす。 やっと、仲間達がやって来た。 千春、若狭、玲子ちゃん・・・・だ。 仲間達に出会えた喜びと、寒さのせいか・・・足元の大きな石につまずい て、持っていたカメラの偏光フィルターを壊してしまった。 玲子ちゃん「あなたでも、こういうことがあるのね! 落ち着きのある人だと思っていたの に・・・。」 玲子ちゃんが、笑いながら話しかけてきた。 照れ笑い・・・・・。 * 会長が子供のことで、少し遅れている間に、記念写真を撮ったり、 厚い雲の隙間から射し込む光に照らされた、エーゲ海やアテネの街の光の 美しさにうっとりと見とれている。 まさに・・・・・天孫降臨の見事な雰囲気をかもし出している。 ところで今日は、東京・上野公園で開会式を行なって、ちょうど三ヶ月目 の閉会式の日なのである。 ・・・と言うことは、今日までに到着しない人は・・・・・失格と なる。 午後二時半、最終走者である小平君も姿を見せて、事実上全員の消息がは っきりとしたことになる。 この全日本ヒッチハイク競技大会の事を知っていた、日本人旅行者十数人 も集まってきて、閉会式が一日延期になり明日になったことを知ると、酷 くがっかりした様子で残念がって・・・・アクロポリスを下りていった。 小平君は、かなり体調が悪いようだ。 俺 「どうしたの?目が充血しているみたいだし、 肌の色も少し黄色みをおびているみたいだけ ど・・・・。」 小平君「ちょっとね・・。軽い肝炎にかかっているみ たい。」 玲子ちゃん「大丈夫?」 小平君「重くないようだし・・・大丈夫さ。」 玲子ちゃん「それなら・・・いいけど・・・・・。」 俺 「・・・・・・・。」 小平君「それより、インドでのことなんだけど、俺が 泊まっていたホテルに、同じ日本人カップルが 先に宿泊してたんだけど。それがどう も・・・、男は急性肝炎にかかっているらしく て、女性の方も熱病でさ・・・・。ベッドに横 になったまま、動きが取れない状態なんだ。」 俺 「二人とも、やられたのか?」 小平君「そうみたい。そのうち、二三日もしないうち に、熱病でベッドにいた彼女の方が亡くなっち ゃってね。」 俺 「死んだの???そんなに酷かったんだ。」 小平君「俺は、連れの男が居るからと思っていたんだ けど、男も肝炎で苦しんでいるだろ。そんあ気 力もなかったんだろうな。何もしてやれないう ちに、彼女が死んじゃったみたいだよ。」 若狭君「でも酷い男だね。なんで病院へ連れて行かな かったのかね。」 小平君「インドを甘く見ちゃったんだろうね。彼も彼 女の死には・・・相当落胆していたらしく、い っそうやせ衰えたみたい。ちょうどそのホテル には、数人の日本人が居合わせたんで、それに ベナレスの町だったもんだから、火葬場がたく さんあったんで、みんなで火葬にして骨を男に 持たせてやったんだけど、・・・・それにして も、可愛そうだったね。」 若狭君「なんてこった・・・。」 俺 「男も大変だよ、これから・・・・。結婚して るなら、ともかくさ・・・。」 若狭君「夫婦じゃないのか???」 小平君「そうじゃないみたいだったね。」 俺 「結婚してなかったら、彼女の両親になんて報 告するのかね。俺だったら、一生日本に帰れな いだろうね。」 小平君「男も肝炎が酷いらしく、二三週間インドで静 養してから、日本に戻るって言ってたけど な・・・。」 俺 「へぇ~~~~~、ひどい話だね。」 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|